『神様のボート』

神様のボート (新潮文庫)

神様のボート (新潮文庫)

博士の愛した数式』と同じ頃、別の友人から借りて読了。雰囲気小説。
葉子は「骨ごと溶けるような恋」をして、草子を生んだ。ピアノ教師とバーなどの仕事をしながら、草子と二人、「あの人」の「どこにいても必ず見つけ出す」という約束を信じて街から街へと移り住み続ける葉子。母を愛し、母が世界の中心で全てだった草子は、転校から転校の日々をいっそ子どもらしくないとも言える諦めのよさで「私たちは旅がらす」と理解していた。しかし、成長と共に「なんでそうなの?」という疑問が湧く。葛藤を乗り越え、親離れをする草子だが、葉子は人生の3つ目の宝、草子のいない日々に埋もれていって… という話。
ピアノと、「あの人」と草子が彼女の宝らしいが、それは欺瞞に見える。確かに残り二つも愛しているだろうが、葉子にとって究極に愛している、他の追随を許さない唯一つの存在はあくまで「あの人」一人だと私には見えた。あの放浪生活はその結果。つまり、葉子の単なるわがままだと思う。始めは「先生」の「東京から出て行ってくれ」という願いからだったのかもしれないが、その後もずっと続けたのは単に、「あの人」がすぐ見つけてくれない理由をひねりだすためにやっていたというかなんというか…「あの人」を待ってる自分に酔ってるとも言えるような…
そしてラストは、え〜そうくるかぁ?!(不満) 葉子が何もかも失って壊れてしまうオチなら、納得してそれもありだと思ったろうが、あれはあまりに唐突で無理があり、しかも葉子にとって都合がよすぎると思う。魔法使いか白馬の王子様なのか、「あの人」?!
まぁそれはさておき、ここまで一つのことに執着できるということ自体はすごいとおもう。それだけのエネルギーを使ってしまったら、たしかにほかに振り向ける分なんてなくてもしょうがないかもしれないとも思った。ただし私は、葉子みたいな人間が近くにいたらイヤだけど。
あと、「シシリアンキス」というお酒はちょっと飲んでみたくなった。いや、弱いんだけどもね。