『僕たちの戦争』

僕たちの戦争 (双葉文庫)

僕たちの戦争 (双葉文庫)

ドラマ化されていたことと、表紙のイラストがなんとも気に入らず、『神様〜』の後荻原作品を読み漁ったにもかかわらず、結構後回しにしていた一冊。

が、読んでみてびっくり。この人、こういうのも書くんだ…と目を点にしながら読み始めるも、最後にはヤラレタ。

所謂ニートの主人公健太は、サーフィンと彼女の美奈美(ミナミ)がいればそれで幸せ。将来の夢はゲームクリエイター。今のところミナミにしか打ち明けていない。最近バイト先の居酒屋社員が「ウザったく」てやめた。家族もうるさいし、そのことでミナミとは険悪に。誰も俺をわかっちゃくれない、と沖に出たところ、波にさらわれ気がつけば見知らぬ浜辺。流れ着いたのは、戦時中の日本だった。

自らとそっくりの航空隊員石庭吾一と間違われ、「練習機を墜落させた脱走兵」として航空隊へと連れて行かれる健太。一方現代日本には吾一がやってきていたが、こちらも健太として家族とミナミに家へと連れ帰られる。

どちらも周囲は「事故のショックによる一時的な記憶喪失(混乱)」として健太と吾一を扱い、本人たちもまた周囲に心配ををかけず、また自分が精神異常として病院送りにならないようにと、少しずつ記憶を取り戻すフリをしながら、周囲から現在の状況を探っていく。

二人の主人公は、互いの場所を入れ替えて1年ほど生活をしていく。健太はやがて、ミナミの祖父母となる人物や自らの祖父に出会い、終戦(敗戦)まで何とか生き残ることと、愛するミナミの元に戻ること、ミナミが生まれる未来を守ることを必死に考える。もはやかつてのすねたニートではない健太。

一方吾一は、現代日本で初めて青年らしい青春を送ることとなる。なにより、『健太』の彼女ミナミと共に過ごす時間。初めて見るもの、聞くもののあふれる社会への関心もさることながら、ミナミへの愛情を育みつつ、それでももとの時代へ戻るという使命感を持ち、「入れ替わる」方法を探す。というストーリー。

はっきりいってこの本は泣ける。(毎回こんなこと書いているような気もするが・笑)

それぞれのこの1年間と、周囲の人間関係の描写もよいが、私が一番泣かされたのはやはり最後である。海で入れ替わったのだから、海へもぐればいいと考えた吾一と、ミナミのいる未来を守る決心をし回天に乗り込んだ健太が、共におぼれかけながら、海中で思い出すのはひたすら

ミナミ、ミナミ、ミナミ


この作品の最後の1行、何も知らないミナミが波間から見えかくれする『健太』へ向かう描写。この1行には、追い討ちをかけられる。