『黄金の羅針盤』
- 作者: フィリッププルマン,Philip Pullman,大久保寛
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/10/29
- メディア: 文庫
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それにしても児童文学の主人公って、どうしてこんなに最初自分勝手なんだろう?と毎回思うだが、これってやっぱり主人公の心の成長を描くためには、スタートの基準は低く設定しとかなきゃってことなんだろうか??
主人公ライラの住む世界では、人間は皆ダイモンという生き物と一対で生きている。
人間が子どもの頃はダイモンは自由に姿を変えることが出来るが、思春期ごろになるとダイモンの姿はひとつに固定される。人間とダイモンは、魂の絆のようなものがあり、その結びつきの強さは、他人がダイモンに触れたり、自らのダイモンと遠く離れようとすると、非常に大きなショックと痛みを感じるほど。
ライラはこの世界の、オックスフォードの学寮のひとつに住む女の子。といっても学生としてではなく、学寮(長)に預けられてるという状態。毎日友達といたずら三昧。*1
ある日、ライラは彼女のダイモンであるパンタライモンを見張りに立てつつ、特別のお客や学寮の高位者しか入れない部屋に忍び込んだところ、学寮長がワインに薬を入れるところを目撃する。
どうしたものかと悩んでいるうちに、お客が入ってきてしまいとっさに隠れた棚から出るに出られなくなってしまったライラだが、薬を盛られたワインを飲もうとする叔父を助けるため飛び出す。その後叔父の指示と協力により、棚の中から部屋での会合を観察することになり、そこで見聞きした話から冒険が始まって…という話。シリーズが長いので、これ以上のあらすじは書いたらきりがない!
当初、自分が楽しむことと自分が英雄的だと思うことばかりを考え、一番得意なのは嘘をつくこと、というライラに共感するのは非常に難しそうだと思った。大人視点から見てしまうと、全くもって「なんで?」と思う言動も見受けられるが、同世代だったら、という視点で見るとなるほど魅力も持っている。
友達というより、手下のようになってしまう同世代の気持ちが分からないでもない、一種のリーダー性とでもいうのだろうか。なるほどわがままで、自己中心的で、嘘つきな子どもで、言動は首尾一貫とは言いがたいかもしれないが、その率直さ、思ったとおりに即行動をする決断力。これは子ども社会では相当魅力的だろうと言える。
児童文学の奥深さは、この子どものヒーロー(この場合はヒロインだが)を単なる勧善懲悪のヒーローいうステレオタイプの善人にしてしまわず、子どもから見れば確かに魅力的だが、子どもならではの理不尽さも併せ持ったリアルさで大人からみても納得、子ども自身も「スゴイけど、完璧ではないにおいがする(あくまで「完璧ではない」と断言ではなく、「そんな雰囲気もある」という程度の気持ちを表現すると「においがする」)」ととっさに感じられるようなヒーロー像を作り上げることが出来るところにあるのかもしれないと思う今日この頃です。