『戦争で死んだ兵士のこと』

戦争で死んだ兵士のこと

戦争で死んだ兵士のこと

これは復刻版。初めて読んだのは前のバージョン(違う出版社から出ていた)だと思う。本屋か学校の図書室かは忘れたが、高校生の頃。絵本。だけど、所謂「大人の読む絵本」調。子どもが読んでもいいと思うが、本当の深さを知るには絶対大人になってからもう一度読むべき。一昨日購入。『ブッタとシッタカブッタ』で有名な小泉吉宏著。
全文英訳付。タイトルはThe soldier by the Lake。「今はのどかな森の中の湖のほとり、ひとりの兵士が死んでいる」から始まり、「ひとりの兵士」の人生を遡っていく。初めの方の「1時間前、兵士は生きて戦っていた」辺りは、ふむふむと何気なく読み進められるが、次第に単純な絵に淡々と書かれたたった1〜2行の文章がとても重く感じるようになっていく。
「3日前、本国の基地に召集された。自分が兵士であることを2年間忘れていた」あたりから、え?となっていく。「忘れていた」理由は「ひとりの兵士」の、あまりに普通の生活の回想の中で明かされていく。
兵士は「10日前、恋人にプロポーズをし将来を誓い合っ」ていた。陸軍予備士官学校に入ったのは「4年と3ヵ月前、父の会社が倒産し」学費に困ったからで、「13歳の時の失恋は食事がのどを通らなかった」し、「8歳の時、近所の犬の顔に落書きをしておこられた」。生まれたのは「24年前のきょう」で「両親が結婚して9年目に生まれたひとり息子」。
人生のどこにも特別なことはなく、特別な性格でもなく、ただ普通に生まれ、普通に暮らしてきた24年間。
誕生まで遡ったところで、最後は冒頭の場面に戻る。妊婦とその夫の笑顔の絵の隣のページは、そのたった24年後の、湖のほとりで倒れた兵士の絵。
「今はのどかな湖のほとり、一人の兵士が死んでいる」
戦場で死んだ「ひとりの兵士」には、人生も歴史も親も伴侶も友人もいる。そんな当たり前のことを淡々と書いてあるだけなのに、普通に、平和に暮らしている人間には、普通に暮らしているからこそ、重いテーマである。直接的に何らかの意見や思想が語られているわけではないが、淡々と事象を語ることで読み手に黙考を促してくる。この重々しさとやるせなさは、読んでみないと本当には分からないと思う。
絵本って文章で説明しても伝わらないなぁ。。
注)上記「」で括った中身は、本文より引用。